【――にしてもさぁ、博士、何か考え込んでなかったぁ?】
世間話のように、目にかかった橙色の髪を払いつつ、βが口を尖らせた。
【んんー、犯人の人物像が読めないからなぁ】δが答える。【スパイが防空システムに入るって難しいんだよ。人が制御しているわけじゃないから、特権命令でも出さない限り、申請を割り込ませるなんて、どだい無理なはずで】
【えー、ってことは開発組が犯人?】
【君もシステム部隊が怪しいって思うでしょ。でもね、博士の件でMOTHERがざっと人員に対して再調査と網をかけたそうだけど、そこからは怪しい人間は出てこなかったらしい】
【いつの間に聞いたんだよ、そんなこと】
【ちゃっかりだな、δ】
γとφが茶々を入れると、δは眉を寄せた。
【ついさっき、MOTHERに申請入れたら教えてくれたけど】
【【MOTHER、ずっとついていきます、すごすぎます】】
【ってことは……内部の犯行じゃないってこと?】
話を聞いていたμが口を開くと、δは頷いた。
【外部からシステムに通常の手法の範囲で不正アクセスを仕掛けるのは難しい、とシミュレートで結論が出ている。だから、どこかに何か、知られていない穴がある。――かつて内部にいて、今はいない人物が何かを仕掛けていった、とか、こっそりどこかが改ざんされている、とかね】
【何だ、裏口手法か……手に汗握るハック戦が繰り広げられたかと思ったのに】
μは別に何があったわけでもないのに、内燃機関が一瞬空転したと感じた。人間風に言うなら『どきっとした』。そういえば昨日の夜だかに、どこかの博士にうっかり改造されたのだ。一体何を実装されたのか、未だによく分からない。何だったのだろう、あれは。
【つまり、鼠は既に船を脱したあと……ってわけだ】
【ねー、その人物ってさー……】
【最近どっかの科学者にさ、施設から懲戒解雇されてエントに流れていった奴がいなかったっけ……】
【あー、ウォルター・バレットだねー】βがくるりと顔を巡らせる。【エメレオ・ヴァーチンと戦闘型アンドロイド開発の主任を争って、別の不祥事で敗退したって人だっけー? 噂でしか知らないけど、ド変態だったってホント?】
【うむ、あのMOTHERが『詳しく調べてはいけません、目と耳が腐ります』って手厳しいお言葉を下した相手か】
【それが本当ならすべてを知ると思しきMOTHERの、あの清らかに見えるお目々とお耳が腐っているということになるのだが】
【γ、φ、おまえたちいい加減にしろ】
【【MOTHERのお目々とお耳が腐れ科学者程度の情報で穢れるわけがなかろう】】
【α、ω、相手にするな。そろそろ全員、推理の時間は終わりだ。接敵するぞ。容疑者の名前が出たところで我々のすることは変わらない。警告が通じなければ撃墜する。それだけだ】
【【【【了解、真面目】】】】
【おまえたち、本当にあとで反省室に叩き込むぞ……】
【――熱源感知。敵艦隊と推定】
今まで無言だったρの告知に、全員の纏